たばこを吸う。
たばこの先がぽーっと明るくなる。
口の中に香ばしさとかすかな甘みを感じる。
息を吐く。
白い煙が散り散りに消えていく。
口の中の香ばしさも消えていく。
たばこを強く吸う。
たばこの先が、さっきよりほんの少し強く光る。
口の中が少しピリッとする。
息を吐く。
白い煙が散り散りに消えていく。
口の中は、まだ少しピリピリしている。
たばこは正直だ。
やさしく吸えばやさしく返してくれるし、荒く吸えば荒く返してくる。
たばこを吸うようになって、イメージが変わった。
吸う前は、荒々しさだけを思い描いていた。
でも、やさしく吸えばやさしい一面も見せてくれる。
甘みやうまみ、おいしい葉っぱのエキスを感じさせてくれる。
たばこのやさしい面を感じたくて、意識的にやさしく吸う。
そうすれば、たばこは裏切らずにやさしく応えてくれる。
もう一度感じたくて、またやさしく吸う。
そうしている内に、自分のすべてがやさしくなってしまう。
人の世が嘘ばかりだとしても、
裏切らない最後の砦に対しては、ぼくも裏切らない。