自覚1

「アイドルが好き」と公言すること

音楽をよく聴くようになったのは大学に入ってからだと思うが、それ以前から、なんなら産まれた時から好きだと思う音楽の基準は変わっていないように感じる。

中学か高校かの時だっただろうか。初めて自分の意志で選んだCDは、PSPもじぴったんのサントラだった。メインの3曲にはいわゆるネオ渋谷系の作曲家たちによるアレンジが加えられ、これがとても心をくすぐった。

「オシャレ・キュート・ポップ」というCDのコンセプトそのままに、ピコピコしていてかわいくて、都会的で。

ただ素直によいと思ったものを手に取った。当時は深く考えていたなかったが、環境もあって人の目ばかり気にしていた自分にとっては、大きな転換点だったのかもしれない。

とはいえ、人の性質がすぐに変わるものではない。「もじぴったんのサントラが好きです」ではあまり話のネタにもならなさそうだったので、サントラを聴きながらも、もっと有名なジャンルや人も漁り、音楽関連のネタはそちらに委ねた。

ネオ渋谷系という言葉のような、ざっくりしたものでも自分が伝えやすい表現をその時に持っていれば、そうしてはいなかったのかもしれない。

そうした時期を挟んで、大学生になった。そこで一人暮らしをさせてもらった。

一人暮らしだと、顔を伺う対象がいないために、自分がどうしたいかだけを頼りに行動することになる。

部屋を自分が心地良いと思える空間にしよう。そのために好きな音楽でもかけようか。そこでようやく、サントラを聴いた時に感じた、素直な好きという気持ちを思い出した。

そこからはもう、自分の感覚に従って音楽を聴き漁るのみだ。

飽きっぽいので、様々なジャンルに好きの可能性を見出しておきたい。だから少しでも引っかかる部分があれば聴いた。

そうしていく内に好きの基準が確固たるものとなっていった。

キーワードはかわいさ、電子音、そして女性ボーカル。

困りものなのは女性ボーカルという点だった。チップチューンやフューチャーベース、その他ジャンルもわからないままに聴き漁っていると、曲調が好みのものはそこそこ出てくる。ただ、アマチュア作曲家も多い中だからか、あるいはジャンルの文化だからか、なかなかボーカル入りのものは見つけだせなかった。

心地よさの大きなキーポイントが、女性ボーカルにある。

ひたすら探していく内に、いわゆる地下アイドルと言われる人たちの楽曲に巡り会うのだった−−−

 

こうした経緯でアイドルを知り、好きになっていったので、好きであるモチベーションは好きな音楽を楽しませてくれるからという点が大きい。自分が素直に好きだと思える音楽が、たまたまアイドルユニットの中にあったから、好きなのである(とはいえちゃっかりチェキなんて撮ったりしているが)。

ただ、人と話している時に、自分の悪い癖が出てしまう。

世間話として、趣味を聞かれることは多い。他にあまり好きなこともないので、音楽の話でもしておこうかとなる。ただ、好きな音楽そのものはあまり有名ではないし、自分の言葉でうまく伝えられそうにない。となると、真意は伝わらないかもしれないが、わかりやすいアイドルという言葉にのせて押し通してしまおうと考えてしまう。また、そこには、「アイドル好き」のような明確なキャラ設定を与えることで、印象に残りやすくしようというような卑しい考えも少しばかりあるのかもしれない。

 こうして、あまり深く語らないままに、「(地下も含めて)アイドルが好きだ」と公言してしまう人間が出来上がった。

 

一方で、アイドル業界に関しては厳しい話題も多く上がっている。

去年から今にかけては特に多かったように感じられるが、ローカル、メジャー問わず運営や商業形態含めて問題を浮き上がらせるような事件が起こった。

 

何か起こってから初めて気付いた、といった形で情けない限りなのだが、こうした状況に対して、上述の公言の姿勢はあまりにもずさんではないか。それは、目の前の相手というよりは自分自身と何より今まさに頑張っているアイドルたちに対してである。

アイドルたちに対しては言わずもがな。

自分自身に対してというのは、性に対する自分の立ち位置に反するというところが大きい。性欲というものに嫌悪感を抱いたところから始まり、自分が男性であることに疑問を持ち、世の中の性のあり方について少しづつでも勉強していたことに対してだ。

 

別に他者は関係ない。歳をとって、かつて人の目ばかり気にしていた反動ためか、すっかり他人の評価を気にしなくなってしまっているから、そこはどうでもよい。

しかし、それだからこそ、自分に対しては誠実でいないと、いよいよ何もなくなってしまう。

アイドルが好きなのは紛れもない事実だと思う。音楽から入ったとはいえ、ライブにも行き、パフォーマンスも含めて素晴らしいと思った。

だからこそ、色々なもやもやを解消して、やっぱり好きなんだと言えるようにしたい。

上述の事件、最大手の売り方。なぜ自分が不快感を持つのかをしっかり消化していかなければならない。そこに明確な意見を持った上で、さらにその土台に好きという気持ちを乗せなければならない。